オタクしてないで絵を描けよ

自称イラストレーターだったはずの、アイドルオタク(女性アイドル)で時々踊り子の病弱な30代渋谷区在住OLがオタク活動と推しへの愛とその時の推してるものを語ったり、たまに制作日記や画材界隈の話も書くブログ。

自称イラストレーターだったはずの アイドルオタク(女性アイドル)で時々踊り子の病弱な渋谷区在住OLが
オタク活動と推しへの愛とその時の推してるものを語ったり、
たまに制作日記や画材界隈の話も書くブログ。


【エビ中】りななんのプロな瞬間をみた話

私の大好きなアイドルグループ、私立恵比寿中学の出席番号9番、りななんこと松野莉奈さんとの突然のお別れから5年という日に際し、私の記憶の中のりななんを共有したく、筆をとりました。駄文ですが、読んでいただければ幸いです。


7年前、エビ中が某生放送の人気音楽番組に出演した時、
私は番組観覧に当選して幸運にも記念すべき瞬間を生で観ることになった。
しかしリハーサルに参加してみたらなんとエビ中の背後で、オタクがエビ中を囲むような配置で観覧することがわかり、正直背筋が凍った。
皆人気番組にアイドルオタクとして映ってしまうという恥ずかしさと、エビ中の晴れの舞台を邪魔してはいけないという気持ちで、リハーサル開始前から異様な緊張に包まれていたことを覚えている。
そんなオタクたちの困惑をよそに、短時間のリハーサルを笑顔でこなし、オタクたちに優しく手を振りながら控室に帰っていくエビ中メンバーの姿は、いつもより一層頼もしく、それでいて可憐で、天使のように見えた。
そして迎えた本番。エビ中の出番直前になり、私たちはスタッフの案内で控え通路からスタジオ内に案内された。
目まぐるしく動くカメラ、走り回るスタッフ、有名アーティストたち、サングラスのあの人、それらが一気に目に飛び込んできて、今まで経験したことのない種類の緊張を覚えた。
リハーサル通りの位置につくと、すぐにトークを終えたエビ中が目の前に入ってきた。
生放送、展開が早い、早すぎる。
ほとんどのオタクたちが雰囲気にのまれて呆然としている中、曲がかかった。
「放課後ゲタ箱ロッケンロールMX」
静寂ののち、たたみかけるような素早いドラムの音が響く。
呆然としていたオタクたちはすぐに自分たちへ課せられた使命を悟り、
跳んだ。
目の前で繰り広げられるエビ中の素晴らしいパフォーマンス、背中に感じるアーティストやサングラスの人の視線、非日常の空間の中、普段のライブでもそんなに激しく動かない私も懸命に跳んだ。
そんな熱狂と混乱の中、近くにいた一人のオタクのペンライトが床に落ちた。
あっと思う間にペンライトは床を転がっていく。
転がったといっても、落下地点からせいぜい50センチくらいだったように思う。
しかし、そのくらいでも十分、危ない!と思う程にはエビ中とオタクの距離は近かった。
早く、早く拾え…ほんの数秒の出来事がまるでスローモーションのように長く感じた。
その時、その場にいたオタクたちが一番心配していたことが起きた。
一人のエビ中メンバーがその落ちたペンライトの方へ近付いてくる。
もちろんカメラのほうを向いているので後ろ向きにだ。
エビ中の曲の中でもトップクラスに早い曲調、そのリズムに乗ってぐんぐん近づいてきた。
そのメンバーが当時17歳のりななんだった。
もう拾うのは間に合わない。下手に前に出たらりななんと接触してしまうだろう。
最悪の事態が脳裏をよぎった。りななんがペンライトを踏んで転倒してしまったら、ケガをしてしまったらどうしよう。それが回避できたとしても、何か事故が起きたことがテレビにうつってしまったら、生放送が中断されてしまったらどうしよう。オタクのせいでせっかくのエビ中の晴れ舞台が台無しになってしまったら…
ペンライトを落としてしまったオタクも成すすべなく立ち尽くしていた。
その時、りななんの踵にペンライトが接触した。
りななんがその踵を上げたら、間違いなく足の下に転がり込んでしまう。
りななんー!
その場にいたオタクの祈るような気持ちが一つになるように感じた。
次の瞬間、りななんは足元に目を落とした。
そしてすぐに状況を察し、一瞬私たちの方に顔を上げると、そのまま音に乗って、ペンライトとは逆の軌道の斜め前の位置へ移動した。
ペンライトを落としたオタクは、まるでりななんの合図に突き動かされるようにペンライトを拾った。
私はそのオタクがペンライトを拾って元の位置に戻るのを横目に見て確認し、
ありがとうりななん…と思い目線を戻すと、既にそこにりななんはおらず前列でカメラの向こうのお茶の間を魅了していた。
今思えば10秒にも満たない僅かな時間の出来事だった。
しかし、りななんのプロとしての対応力と冷静さを窺い知るには十分な時間だった。
そのあとのことはあまり覚えていない。
エビ中のパフォーマンスが終わり、スタッフに促されてスタジオを出る際、事前に、走らなくても大丈夫ですからと伝えられていたが、付近にいたオタクたちはみな自然と走っていたのを覚えている。
非日常の空間で最大数十センチという至近距離で大好きなエビ中の熱いパフォーマンスを観た高揚感と、テレビにオタク姿をさらされた恥ずかしさと、ペンライト落下事件の安堵と申し訳なさ。自分が落としたわけではなかったが、その瞬間ひとつの「オタク」の塊として存在していたので当事者のような気持ちになっていた。駆け出したのはそんな後ろめたい気持ちもあったように思う。
これはもしかしたら後々記憶を美化した可能性もあることを先に書いておくが、あの時、りななんが一瞬オタクの方を見た時、狼狽える私たちが見えていたか見えていなかったかは今となってはわからないが、こちらに微笑みかけてくれているように見えた。
いやいやさすがにこれは記憶の美化かもしれない。
それにりななんはいつも笑顔だった。かっこいい曲、シリアスな曲でも一人微笑んで客席に手を振るほどに笑顔を絶やさなかった。
オタクが起こしたこの小さなハプニングも笑顔で乗り切ったのだ。
私はこの日を境に、りななんへの見方が少し変わった。
りななんといえば、「見た目は大人、中身は子ども」というキャッチフレーズにもあるように、
何かあるとステージの上でも涙を流したり、かと思えば率先して大騒ぎしたり、
クールで透き通るように儚げな美しいビジュアルとのギャップが可愛らしい子だった。
しかし、あの生放送中のりななんは確かにプロのアイドルだった。
ファンの前では無邪気な姿を見せていたが、子どものころから長く芸能界で活動して、エビ中としても大きなステージを何度も踏んできた。笑顔の裏でたくさんのことを経験し糧としてきたからこその冷静な判断とファンへの気遣いだったのだな、松野莉奈は本当に素晴らしいアイドルだなと、思った。


この話は今までSNSにも書いたことはないし友達にも話したことはない。
ペンライトを落としてしまったオタクのこともあるし、生放送中のこととはいえあまり番組観覧の裏側を話すのもマナー違反のように思ったからである。
ただ、7年もの月日が経っているということと、りななんとの突然のお別れから5年という日でもあったので、私の記憶に残っているりななんのお話を共有できたらと思い、書くに至った。

私はこの世界から旅立ったあとの魂の行き場について特に決まった考えは持っていないが、
もしいつかりななんに会える機会があれば、
あの時はオタクが申し訳なかったということと、そのオタクも悪いが特殊な状況で私たちも平常心ではなかったので許してやって…と伝えたい。
そしたらきっと、あの笑顔で許してくれる。いやきっとひとつも怒ってなどいないだろうけど。